「M-SPOT」Vol.035「808サウンドから紐解く、サウンド感と時代性」

今回紹介するアーティストは、「リアルを侵食する、VR発オルタナティブ音楽ユニット」と自らを表現するYSSという二人組のユニットだ。
作詞作曲からミックス&マスタリングまでをこなすエンジニア&共同プロデューサーでもあるボーカリストにょるオルタナティブユニットだが、そのサウンドは「EMOと808サウンド」を核にするという。活動エリアはVRChatやclusterといったメタバース空間を中心にしながらも、リアルイベントにも精力的に出演しており、仮想と現実を自由に行き来しながら、次世代カルチャーの最前線を駆け抜けることを標榜している。
まさに2025年の世界線を感じさせる活動形態だが、サウンドはY2Kを意識し808サウンドに個性を見出すところが、ひとつのこだわりのようだ。個性とアイデンティティはどのようにプロデュースされているのか。妄想の翼を広げるのは、いつもの通りナビゲーターはTuneCore Japanの野邊拓実と進行役は烏丸哲也(BARKS)である。
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──今回はYSSの「Celestial wonder」という楽曲を紹介させてください。YSSはコンポーザーとボーカルによるユニットなんですけど、VRとリアルの両軸で活動するというコンセプトもさることながら、808サウンドでEMOいことを演ろうと公言しているんですよ。何故に808なのか、このあたりの志向性ってどう理解するのが正解なのでしょう。(※編集部註:808サウンドとは、ローランド製ドラムマシンTR-808のサウンドのこと。1980年に発売されたアナログシンセ・ドラムサウンドで、生ドラムとは一線を画した定番サウンドとなった。愛称はヤオヤ)

野邊拓実(TuneCore Japan):第1には、その音が好きかどうかですよね。機材の選び方って、もはや音色だけで選んでいるひとって実はそんなに多くないのかもって気もするんです。そのブランドへの印象だったり歴史的な背景、好きなアーティストが使っている…といった文脈もあったりもするので。
──確かに。単に「欲しい」と思って購入し、買った後から使いこなしモードに入るというのも楽器あるあるですもんね。
野邊拓実(TuneCore Japan):特に808なんて「その文脈祭り」というか、いろんなところで使われてきて一世も風靡して今に至っているものですから、若干リバイバルチックな使われ方をしていますけど、今も普通に現役だと思います。ただ、「昔のもの/レトロなものへのノスタルジックな価値観に共感を持っているよ」みたいな、そういうアイデンティティの表れとして808を打ち出すことは、結構ありますよね。
──808というドラムサウンドも極めて個性的ですから、808使用を公言するところには意図があると思うんです。パブリックイメージで言えばラウドロック/メタル系には使わないし、フリージャズでも使われませんよね。生ドラムとは異とする808サウンドを使いこなすところにやり込み要素を感じたりするのかな。
野邊拓実(TuneCore Japan):808に限らずですけど、打ち込みなのか生ドラムなのか、そこはライブパフォーマンスをどういう風にやりたいかにもよりますよね。「どういうスタイルで見えたいか」っていう自己自認の話でもあると思います。僕も曲を作る時はドラムは打ち込みですし、ライブではシンセを同期で流しますけど、でもドラムだけは同期で鳴らしたくないんですよ。例えPAスピーカーから鳴っているドラムの音色に違いがなかったとしても、見栄えの話だったり伝わってくる振動だったり、生で体感するドラムのダイナミックスだったり現場の見え方は全然変わってくるので、そういう選び方もあるなって思います。
──確かに。二人のユニットだからこそ、ドラマーの存在は不要なのかも。
野邊拓実(TuneCore Japan):このYSSがプロフィールでも808を打ち出しているというのは、バーチャル上でのアーティストのあり方としては親和性はすごく高いと思うので、「音楽の作り方からもVRを想定しているものなんだな」っていうのは好意的に伝わりますよね。ただ、808を使っている人なんてめちゃくちゃいっぱいいて、808を使うこと自体は普通なことですから、そこはアーティストの個性につながるものではないとも思います。808自体には強いキャラクターはありますけど。
──808もひとつのオトネタにすぎないですからね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうなってくると「EMO」の部分が気になりますね。エモというのは、生で聴くほど魅力を感じやすい印象を持ったジャンルだと思っているので、バーチャルをコミットしながらもそれから1歩で出ようという意識の表れがエモなんじゃないかなっていうのは、なんとなく解釈できるなと思いつつ、楽曲を聴くと「エモってなんだっけ」みたいな気持ちにちょっとなるかな。
──VRはもちろん、そもそもネットの世界は機械的なクールなサイバー空間ですから、肉感的な肌触りとは真逆な世界に身を置くからこそ、汗とか涙とか熱量ある感情を感じさせる人間的なものを表していきたいと思えば、それがEMOという言葉になるのかもしれない。EMOを排除し機械的にクールに追求すると、例えばクラフトワークみたいになっていくでしょ?それも一周回ってエモいけど(笑)。
野邊拓実(TuneCore Japan):クラフトワークだったりperfumeだったり、機械的な方向に洗練させていくパターンと、機械に肉感的な印象を持たせるパターンと2軸ありますね。YSSはきっと後者なんだろうなというのはこのプロフィールからも伝わります。楽曲自体はいろんな要素が含まれていると感じますよ。それこそFuture Pop/Future Bassみたいなところも感じますし、なんならその前のダブステップとかその辺の匂いも感じたりとかして。
──私は、2000年代後半に活動していたSweet Vacationを思い起こしたなあ。まだVRという言葉もなかった時代でしたが。
野邊拓実(TuneCore Japan):私は、めちゃくちゃ最新な要素が何かひとつ加わるといいなあと思いました。
──でもだからこそ、奇をてらったものでもなく尖ったセンスが目立つわけでもないことが、一般層に支持されやすくなる点にも繋がりますよね。
野邊拓実(TuneCore Japan):そうですね。広く一般を対象にするのであれば、すごく新しく聴こえるかもしれない。プロフィールには「国内外のコアなリスナーを惹きつけてやまない」とあるので、コア層を対象とするのであれば、もう1歩進んでもいいんじゃないかなって思ったんですけど、メタバースのような先進性の中で、サウンドとしてはいろんなジャンルが本当に多彩に入っていると思うので、そういうところは結構好きです。本当にちゃんと多彩だから。
──VRとリアルを行き来するところに、新しいエンターテイメントを創造していくという覚悟があるんでしょうね。
野邊拓実(TuneCore Japan):「FutureでY2Kな質感をまとう」というサウンドと書いているので、ちょっと1歩懐かしさというか古く感じるような質感は、きちんと狙ったところかもしれない。
──確かに。
野邊拓実(TuneCore Japan):ちょっとフューチャーな2000年代サウンド。Y2Kという言葉も飽和していますけど、言い換えれば「平成感」みたいなものですかね。これからはEMOもY2Kもさらに細分化されていく気もします。今後も楽しみですね。
YSS
YSS|リアルを侵食する、VR発オルタナティブ音楽ユニット YSSは、コンポーザー yopi とボーカル Sorte による、EMOと808サウンドを核にしたオルタナティブユニット。 FutureでY2Kな質感をまとうサウンドは、Hyperpop、House、Color Bass、Trapなど多彩なジャンルを横断し、国内外のコアなリスナーを魅了している。 VRChatやclusterといったメタバース空間を舞台にしたライブパフォーマンスを中心に、リアルイベントにも精力的に出演。仮想と現実を自由に行き来しながら、独自の表現を拡張し続けている。 「VRから世界へ」──音楽と世界観を武器に、YSSはCREWと共に次世代カルチャーの最前線を駆け抜ける。
https://www.tunecore.co.jp/artists/YSS
協力◎TuneCore Japan
取材・文◎烏丸哲也(BARKS)
Special thanks to all independent artists using TuneCore Japan.
◆「M-SPOT」~Music Spotlight with BARKS~
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