【インタビュー】鳥羽一郎、1070曲一挙配信&新曲「昭和のおとこ」発売「聴いてもらえなかった曲、歌えなかった曲にも改めてチャンスを」

今年でデビュー43年の鳥羽一郎が、9月10日に全カタログ配信解禁。デビュー曲「兄弟船」をはじめ、これまでにリリースしたシングル146作品・アルバム35作品の全1,070曲を一気に配信した。

さらに10月1日にはニューシングル「昭和のおとこ」をリリースする。「兄弟船」で1982年にデビュー、『NHK紅白歌合戦』にも20回出場するなど、昭和・平成・令和と時代を越えて活躍する鳥羽。

実は全カタログの中には、昭和レトロブームで再評価されている楽曲のカバーや、ラテン系のメランコリックな歌謡曲も多数存在する。そんな鳥羽の名曲の裏話と共に、新曲「昭和のおとこ」についてや、配信に望む思いなどたっぷりと語ってもらった。

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◾︎エピソードも楽しみながら、曲を聴いてもらえたらうれしいです

──鳥羽さんの楽曲、全1,070曲が配信になるとのことですが、どんなお気持ちでしょうか?

鳥羽一郎:自分でも驚きました。『時代の歌』シリーズに収録したカバー曲は別として、半分以上は忘れていると思いますけど(笑)。レコーディングしたはいいけど、コンサートなどで歌う機会が少なかった曲も多いし、すでに廃盤になったレコードもあって、それは聴きたいと思っても聴けなかったわけだからね。

──いろいろ聴かせていただきましたが、「カサブランカ・グッバイ」(96年)はラテン調のサウンドで、女性視点の歌詞を歌っているのが新鮮でした。『NHK紅白歌合戦』でも2回歌われていますが、鳥羽さんを代表する「兄弟船」(82年)とは違った印象のこういった曲もぜひ聴いてほしいですよね。

鳥羽一郎:「カサブランカ・グッバイ」は、実はほぼノープロモーションだったから、出した時に「誰が歌っているんだ?」というので話題になったんです。声の雰囲気も違うから、まさか鳥羽一郎が歌っているとは誰も思わなかったみたいで、ラジオ番組でクイズに出されたくらいです(笑)。それほどの話題になったら普通は「実は俺が歌っています」って名乗り出ると思うけど、それもしなかったの。

──どうして言わなかったのですか?

鳥羽一郎:いや、なんて言うか照れくさくてね。でも、それがかえって良かったみたいで。自分の歌は「兄弟船」も「男の港」(86年)もそうで、売れた歌というのは、「カサブランカ・グッバイ」のように、レコード会社があまり力を入れていなかった歌ばかりなんですよ。デビュー曲も「兄弟船」ではなく、同じ船村先生が書いてくださった2ndシングル表題曲「南十字星」(83年)になる予定だったんです。船村先生は、お兄さんがフィリピンで戦死されていて。やっぱりお兄さんへの思いがあって、そこから見える南十字星を歌にしたんじゃないかなと思います。そういう兄弟への思いがあって、「鳥羽のデビュー曲はこれだ」と。ただレコード会社の社長は、3rdシングル表題曲「流氷・オホーツク」(83年)のほうが勢いがあっていいと言って、「南十字星」と「流氷・オホーツク」で意見が真っ二つに割れました。

結局デビュー曲はそのどちらでもなく「兄弟船」になったんだけど、それも歌詞を一般から募集した、とある企画の入賞作だったんです。船村先生はその企画の一環として入賞作の「兄弟船」の歌詞に曲を付け、その企画の発表会で俺が1回歌っただけの曲だった。俺は密かに「兄弟船」がいいなと思っていたんだけど、そんなことは言えるわけもなくて。だって相手は、作曲家の大先生とレコード会社の社長ですから。それがどうして「兄弟船」になったかと言うと、レコード会社の宣伝マンの人たちが「どこに行っても『兄弟船』の評判がいいですよ」と言ってくれたからなんです。それで社長もようやく耳を傾けてくれて、それなら「兄弟船」にしようと。

──「兄弟船」の作詞は星野哲郎さんですよね。

鳥羽一郎:企画で入賞した歌詞は、北海道の木村さんという方が書いたものだったんだけど、北方領土問題に触れたような歌詞だったんです。それでレコーディングするにあたって、星野さんが歌詞を書き直しました。だから入賞者の木村さんの歌詞で歌ったのは、発表会で歌った1度だけ。そのときの音源は存在していないけど、歌詞は今でもよく覚えていますよ。「兄弟船」というタイトルも木村さんが付けていたものでした。そういった紆余曲折があったのが、「兄弟船」です。

「男の港」(86年)もそうで、大分県鶴見町という町から、町おこしの曲を頼まれて作ったものでした。町からは「鶴見音頭」を作ってほしいという依頼だったんだけど、町をイメージした曲はどうかと逆に提案をして「男の港」ができた。要は、委託曲です。レコーディングして、鶴見町にレコードを2,000枚買い取ってもらって終わるはずでした。でもレコードを買った方が、九州のいろんなところでかけてくれたり歌ってくれたりしたそうで、少しずつ火が付き始めて、じゃあ全国版にしようと、改めてシングル「男の港」として全国発売したところヒットしたという経緯があります。

──そういうエピソードがあったと。

鳥羽一郎:そんな曲ばかり。人生はわからんもんですね。

──宇崎竜童さんプロデュースのカバーアルバム『時代の歌』シリーズは5作リリースされました。もんたよしのりさんの「ダンシングオールナイト」、寺尾聰さんの「ルビーの指輪」など、今も人気の歌謡曲を中心とした多彩なカバーを収録しています。

鳥羽一郎:『時代の歌』シリーズは、半分くらい宇崎さんが選曲してくれて、「ダンシングオールナイト」など“ナウい”(笑)歌は全部、宇崎さんが「こういう歌も歌ったらどうだ?」と選んでくれました。演歌ばかりじゃなく、こういうポップスも合うと思うからと。欧陽菲菲さんの「ラブ・イズ・オーヴァー」など女性歌手の曲もカバーしているんだけど、そういう曲も宇崎さんが選曲してくれて。ただどれも宇崎さんがアレンジをまったく変えているから、カバーではあるけれど新しい歌というイメージで歌っていた印象ですね。フォークシンガー岡林信康さんの「山谷ブルース」なんか、オリジナルにはセリフが無いのに、宇崎さんの提案でセリフが入っていたりしますから。

──『時代の歌』シリーズは、ジャケット写真もかっこいいですね。

鳥羽一郎:1作目のジャケットは、溜池にあったレコード会社の屋上で、宇崎さんたちと一緒に撮った写真です。レコード会社の中にスタジオがあって、そこでレコーディングしたんだけど、その流れで「ジャケット写真をみんなで撮ろう!」と言って、参加してくれたミュージシャンも集めて一緒に撮ったの。すごく懐かしいですね。あと「愛恋岬(87年)」という曲にも逸話があって。

──「愛恋岬」は静岡県の伊豆に歌碑が建てられているなど、鳥羽さんの代表曲の1つです。

鳥羽一郎:最初にオーソドックスな演歌バージョン(シングルバージョン)を作って、それはギターをメインにしたサウンドで、言ってみれば“ギター演歌”みたいな感じだったんだけど、そこから派生して“タンゴバージョン”というのも作ったんです。そのタンゴバージョンがちょっと変わったウケ方をして、伊豆の下田にある稲取温泉の芸者さんたちが、「愛恋岬」のタンゴバージョンで踊るというパフォーマンスを始めたんです。タンゴと聞くと、赤や黒のドレスを翻して踊るアルゼンチン・タンゴのダンスをイメージすると思うけど、芸者さんだから着物で、日本舞踊とタンゴがミックスされた感じですごくステキだったの。そういうのがあるという噂を耳にして、気になって一度プライベートで観に行ったことがあるんだけど、すごく良かったよね。芸者さんたちが上手く踊るんです。曲に合わせて扇子をポーンと飛ばして、キャッチしたり。着物でよくあんな風に踊れるなって、すごく感心したよね。踊りの先生が考えたそうですけど、そこで俺の曲を使ってくれたというのが嬉しかったし。タンゴを踊る芸者さんたちは、その時期すごく話題になったんですよ。

──今で言えば、好きな曲を使ってTikTokで踊って拡散されるような感じですね。

鳥羽一郎:ああ、そういう口コミのはしりだったかもしれないね。でもこういう機会に振り返ってみると、曲ごとにいろんなエピソードが思い出されます。こういうエピソードも楽しみながら、曲を聴いてもらえたらうれしいです。

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